2025/06/19

ジョブ型人事

報酬制度

ジョブ型人事の導入企業|ライオン株式会社の事例をご紹介

日本でもジョブ型人事制度・ジョブ型雇用を導入する企業が増えていますが、ライオン株式会社もそのうちの1社です。歯磨きや洗剤・石鹸など日用品の大手メーカーとして広く知られるライオン株式会社では、2023年から新人事制度としてジョブ型を導入しています。

1891年に創業し、日用品メーカーとしての長い歴史を持ちながらも、積極的な人事制度の改革など革新的な取り組みを続ける同社の事例は、ジョブ型を検討(または導入)している経営者の方や人事ご担当の方に、大きなヒントとなる内容が詰まっています。

 

本記事では、ライオン株式会社を事例として、ジョブ型の導入に至った背景や等級制度・報酬制度・評価制度など、ジョブ型人事制度の具体的な内容を詳細に解説します。

 

ライオン株式会社とは

ライオン株式会社は、歯磨き・歯ブラシ関連商品、石鹸・洗剤、スキンケア用品、医薬品、化学品などの製造販売を行う、大手日用品メーカーです。
1891年に創業し、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」というパーパスのもと、心と身体のヘルスケアとサステナブルな社会の実現を目指しています。

 

2024年12月時点の従業員数は、単体で3,068名、連結では7,654名となっており、4,000億円を超える売上(連結)を計上しています。
東京証券取引所プライム市場にも上場しており、日本を代表する生活用品メーカーの1つです。

 

2025年には9年連続で健康経営優良法人にも認定されるほど、従業員の健康増進に積極的に取り組んでいます。
「従業員の健康が会社の健全な成長を支える経営基盤である」との考え方のもと、生活習慣の改善や口腔内の健康、メンタルヘルス対策など、従業員へのサポートが充実している点が特徴です。

また、子連れ出社が可能なオフィスなど、老舗企業でありながら様々な改革を行っています。

 

ライオン株式会社のジョブ型の導入事例

ライオン株式会社では、従業員のキャリア開発やスキルアップ、待遇改善などに向けてジョブ型人事制度を導入しています。

ジョブ型の導入に至った背景や、等級制度、報酬制度、評価制度など、具体的な制度の内容を詳細に解説します。

 

ジョブ型人事制度の導入の背景

ライオン株式会社は、国内売上比率が約70%を占める中で、中長期経営戦略「Vision2030」により、2030年までに海外売上比率を50%以上へ引き上げ、全体売上を1.5倍に拡大する目標を掲げています。

この目標の実現には、国内の生産性向上に加えて、海外展開をリードできるプロフェッショナル人材の確保と育成が不可欠です。こうした背景から、ライオン株式会社では「自らキャリア・仕事・働き方を考えて行動し、高い生産性で業務に取り組む人材」を育成の中心に据えています。

 

この方針に基づき、挑戦意欲のある人材を積極的に採用・登用し、従来の階層別研修を廃止しました。
その代替として、従業員が必要なスキルを自ら選んで学べる「ライオン・キャリアビレッジ(LCV)」を2019年から導入しています。

 

(参照:人材開発|従業員とともに|サステナビリティ | ライオン株式会社

 

等級制度の詳細

従来のライオン株式会社では、マネジメント層が役割等級(実質的には職能等級)、非管理職が職能等級に基づいて評価され、年功序列の風土が強く残っていました。その結果、「成長方法がわからない」「挑戦しない」社員が増え、同質性の高い人材が量産されるという課題が生まれていました。

 

こうした背景のもと、ライオン株式会社は社員の自律的なキャリア形成を促進するため、等級制度を抜本的に再構築しました。新たに導入されたジョブ型人事制度では、職務や役割の大きさ(ジョブサイズ)を基準に等級を決定し、「職務定義書(ジョブディスクリプション)」または「役割定義書」を運用の軸としています。

 

管理職向けの等級制度

管理職であるプロフェッショナル職には、以下のように「マネジメント職(M職)」と「エキスパート職(E職)」の複線型構造を導入しています。

  • M職
    • 責任・権限・業績貢献度を明示した「職務定義書(ジョブディスクリプション)」を作成し、戦略実行力の強化を図る
    • 国内関係会社を含めた、約600ポジションに対して職務定義書(ジョブディスクリプション)を整備済み
  • E職
    • CTOなど職務内容が明確な上位層に対してはM職と同様に「職務定義書(ジョブディスクリプション)」に基づいて等級を決定
    • それ以外のE職では「役割定義書」を用いて、職群別・全社水準に基づく役割ベースの運用を行う

 

また、等級は職務の大きさ(ジョブサイズ)を定量的に評価・数値化して格付けされており、同じ「部長職」であっても、職務内容に応じて異なる等級が割り当てられる仕組みです。

 

非管理職向けの等級制度

非管理職であるスタッフ職については「役割等級型」とし、役割定義書をベースに運用されています。

異動・キャリアチェンジや育成を目的として担当職務の変更により、等級が不安定に変動しないよう配慮がなされた制度となっている点が特徴です。

 

(参照:siryou3.pdf

 

(参照:siryou3.pdf

 

ライオン株式会社で整備している職務定義書(ジョブディスクリプション)は、下記のフォーマットとなっています。

(参照siryou3.pdf

 

(参照siryou3.pdf

 

報酬制度の詳細

ライオン株式会社の報酬制度では、管理職(プロフェッショナル職)に対しては、現在担っているポストまたは役割の重要度に基づき、「同一等級・同一月額基本給」を適用しています。
ここでは個人評価は賞与のみに反映され、基本給には影響しません。

 

一方、非管理職(スタッフ職)には、個人評価によって昇降給が行われる「レンジ給」制度を適用し、努力と成果が給与に直接反映される仕組みを整えています。

報酬水準は、各等級の職務サイズに基づいて他社や自社実績と比較し、設定されています。
特に、他業界からの中途採用者の増加にも対応できるよう、同業界の水準をベンチマークするのではなく、同規模企業の水準をベンチマークして報酬に反映している点が特徴です。

 

評価制度の詳細

ライオン株式会社の評価制度では、「成果(結果とプロセス)」を重視した仕組みが採用されています。

評価の基準となるのは、各ポジションにおける役割・職務の定義内容です。
マネジメント職(M職)や、エキスパート職(E職)のうち、職務定義書(ジョブディスクリプション)が作成されているポジションでは、その職務定義書に基づいて評価が行われます。

 

一方、非管理職や一部のE職ポジションでは、職群ごとの役割定義書に沿って評価される仕組みとなっています。
また、コンピテンシー(行動特性)は職務定義書内に記載はされているものの、評価項目として直接は用いられていません。

 

評価項目は、大きく以下の2軸から構成されています。

  • 業績:定量的・定性的な業務成果
  • 組織開発:特に管理職では、部下の育成やチームビルディングといったマネジメント要素を重視

 

また、目標水準には「ストレッチ」「スタンダード」「ミニマム」の3段階が設けられており、社員が挑戦的な目標に主体的に取り組めるような工夫がされている点が特徴です。
評価は年1回ですが、必要に応じて目標の修正が可能な柔軟な運用を実施しています。

 

キャリア自律の取り組み

ライオン株式会社は、より専門性の高い人材の獲得・育成に向けて、9つの専門職群を設定しています。従業員が自身のキャリアパスや将来像を具体的に描きやすくするような工夫となっています。

 

また、社員のキャリア自律やマネジメント力の向上を目的とした以下のような取り組みを多角的に展開しています。

  • キャリアデザイン・サポート(CDS):キャリア相談、社内外の情報提供、年代別のキャリアデザインセミナーの実施など、多面的な支援を実施
  • 関係性向上プログラム:上司と部下など縦の関係に着目し、マネジメント層のコミュニケーション力向上や関係構築スキルの強化を図る施策を導入

 

これらの取り組みにより、社員一人ひとりが自らのキャリアを主体的に設計・実行できる環境を醸成しています。

 

(参照siryou3.pdf

 

まとめ

今回は、ライオン株式会社がどのようにジョブ型人事制度を導入し、等級・報酬・評価といった制度を整えてきたのか具体的にご紹介しました。

職務や役割をベースにした等級制度、職務の大きさ(ジョブサイズ)に連動した報酬設計、成果と役割遂行を評価する仕組みなど、従業員一人ひとりが納得感を持ち、前向きに挑戦できる環境づくりにつながっています。

 

これからジョブ型の導入を検討している経営者の方や人事ご担当の方、自律的な組織を目指している経営者の方にとって、ライオン株式会社の事例はとても参考になるヒントが詰まっているのではないでしょうか?