ジョブディスクリプション / 職務記述書

ChatGPTでジョブディスクリプションは書ける?AIで職務記述書の作成を試してみた
生成AIがビジネスの現場で急速に活用されるようになっています。人事領域においても例外ではなく、効果的な人事施策の運用や採用活動の効率化などにAIが活用され始めています。
戦略人事において、これまで非常に負荷が大きく、現実的には運用が困難であった施策の一つに「ジョブディスクリプションの作成・運用管理」が挙げられます。ChatGPTをはじめとする生成AI技術の発展により、ジョブディスクリプション(職務記述書)をAIで作成することで、職務を起点とした本質的な戦略人事が実現できるようになってきました。
本記事では、ChatGPTを使ったジョブディスクリプション作成の実例と、その効果的な活用方法についてご紹介します。
目次
AIによるジョブディスクリプション作成の可能性
ジョブディスクリプション(職務記述書)は、採用・人事評価・キャリア自律促進などの鍵を握る重要な文書ですが、その作成には膨大な時間と専門的な知識、事業や各職種の幅広い理解を必要とします。
ChatGPTなどのAIツールを活用することで、ジョブディスクリプション作成にはどのような効果が期待できるでしょうか。実際にChatGPTにジョブディスクリプションを作成してもらった結果をもとに、その活用方法と注意点を解説します。
Chat GPTで作成したジョブディスクリプションの実例
実際のイメージがしやすいように、ジョブ型の代表的な先進企業である「株式会社日立製作所」様を例として、ChatGPTでジョブディスクリプションを作成した出力結果をご紹介します。
2023年8月、2025年5月で実行した内容を、それぞれそのまま掲載します。
Chat GPTの回答(2023年8月時点)
[注意] 私のデータは2021年までの情報に基づいており、最新のJD(Job Description)には対応していないかもしれません。以下に示す「日立製作所の営業課長のJD」は一般的な営業課長の職務内容を参考にしたものです。実際のJDは日立製作所の組織や業界の要件によって異なりますので、具体的なJDは日立製作所の公式情報を確認してください。
職名:
日立製作所 営業課長 (Sales Department Manager)
職務概要:
日立製作所の営業課長は、営業チームの指導と戦略的な計画立案を担当し、企業の製品やサービスの販売における成果を最大化します。顧客ニーズの理解と顧客満足度の向上、新規ビジネスの開拓、既存顧客の維持など、営業活動の効率化と成功に貢献します。
職務詳細:
1. 営業戦略の策定: 顧客セグメントと市場の分析を行い、営業戦略を計画し、営業目標の設定と達成に向けて方針を定めます。
2. チームの指導と育成: 営業チームのメンバーを指導し、業務の優れた実行をサポートします。定期的なミーティングやフィードバックセッションを通じて、個々の成長とパフォーマンス向上を促進します。
3. 顧客関係の構築: 重要な顧客との信頼関係を築き、長期的なパートナーシップを構築します。顧客のニーズを把握し、カスタマイズされたソリューションを提供して顧客満足度を向上させます。
4. 営業成績のモニタリング: 営業活動の進捗状況を追跡し、成果を評価・分析します。必要に応じてアクションプランを調整し、目標達成に向けて改善策を導入します。
5. 市場動向の分析: 市場変化や競合他社の動向を把握し、営業戦略に反映させるための情報収集を行います。
6. 技術・製品知識の向上: 日立製作所の製品・サービスに関する深い理解を持ち、営業チームに対して適切なトレーニングや教育を提供します。
7. レポートと報告: 上級管理職や本社とのコミュニケーションを円滑にし、営業活動の進捗状況や業績に関するレポートや報告書を作成・提出します
8. 予算管理: 営業活動の予算を管理し、収益と経費のバランスを調整します。
上記は一般的な営業課長のJDの一部です。日立製作所の営業課長のJDは、その組織の要件に合わせてカスタマイズされる可能性があります。具体的なJDについては、日立製作所の公式ウェブサイトや人事部門の連絡先から詳細を確認してください。
上記のChatGPTの回答に対する編集部の所感
2023年8月時点では、各社(今回の例では、株式会社日立製作所 様)に沿ったジョブディスクリプションの作成は難しく、一般的な企業の例としてのジョブディスクリプションが出力されていました。若干、不自然な日本語が使われている箇所もありますが、一般的な「営業課長」の職務内容としては、ある程度わかりやすく網羅的に記載された内容が出力されていると言えます。
一方で、本来のジョブディスクリプションには記載されるべき「必要な経験」や「コンピテンシー」については、特に記載がありませんでした。
「必要な経験」および「コンピテンシー」について、追加作成を依頼し出力された回答を以下に記載します。
ChatGPTの追加回答①(2023年8月時点)
日立製作所の営業課長になるためには、一般的に以下のような経験が求められる場合があります。ただし、具体的な要件は日立製作所の求人情報や組織の要件によって異なる場合がありますので、最新の情報を確認することが重要です。
営業経験: 営業職の経験が求められます。特に、製品やサービスの販売経験があると優遇されることがあります。大規模な取引の経験や長期的な顧客関係の構築に成功した経験が評価される場合もあります。
マネジメント経験: 営業チームやプロジェクトチームを指導・管理した経験が望まれます。リーダーシップ力やチームビルディングのスキルが重要です。
技術知識: 日立製作所は幅広い産業分野で事業を展開しており、製品に関する深い技術知識があると有利です。特に、応募するポジションに関連する技術的な理解が求められる場合があります。
顧客フォーカス: 顧客のニーズを理解し、カスタマイズされたソリューションを提供する能力が必要です。顧客満足度向上に取り組んだ経験が重要視されることもあります。
市場分析能力: 営業戦略を策定するために市場の動向を把握し、競合他社の動きを分析するスキルが求められます。
コミュニケーションスキル: 営業課長は上司やチームメンバーとのコミュニケーションが頻繁に発生するため、優れたコミュニケーションスキルが不可欠です。
問題解決能力: 複雑な営業課題や顧客の課題に対して適切な解決策を見出す能力が重要です。
これらの経験が、日立製作所の営業課長のポジションに応募する際に役立つ可能性があります。応募前に日立製作所の公式ウェブサイトや求人情報を詳細に確認し、具体的な要件を理解することをお勧めします。
ChatGPTの追加回答②(2023年8月時点)
日立製作所の営業課長として成功するために必要なコンピテンシー(能力やスキル)は、以下のようなものが挙げられます。これらのコンピテンシーは一般的なものであり、具体的な要件は日立製作所の組織文化や求人要件によって異なる場合がありますので、最新の情報を確認してください。
リーダーシップ: 営業課長は営業チームを指導・管理し、共通の目標に向けてリードする役割を担います。リーダーシップスキルを持ち、チームをモチベートして高いパフォーマンスを発揮させることが求められます。
顧客フォーカス: 顧客のニーズを理解し、顧客満足度を向上させるために努めることが重要です。顧客志向の意識を持ち、カスタマーサービスに対する取り組みが求められます。
戦略的思考: 営業課長は営業戦略を策定し、目標達成に向けた戦略的なアプローチを取る必要があります。市場の動向や競合状況を分析し、効果的な営業戦略を立案する能力が求められます。
コミュニケーションスキル: 上司や部下、他の部門との円滑なコミュニケーションが営業課長には必要です。効果的なコミュニケーションにより情報共有や意思決定をスムーズに行うことができます。
問題解決能力: 複雑な営業課題や顧客の課題に対して適切な解決策を見出す能力が求められます。問題解決能力により、営業活動の効率化や成果の最大化に貢献します。
チームビルディング: 強力な営業チームを構築するためのスキルが必要です。メンバー間の協力を促進し、個々の強みを生かしたチームの形成に努めます。
プレゼンテーションスキル: 顧客や上級管理職へのプレゼンテーションが頻繁に発生するため、効果的なプレゼンテーションスキルが求められます。
プロジェクトマネジメント: 複数のプロジェクトや営業活動を同時に管理する能力が必要です。タスクの優先順位付けやスケジュール管理が求められます。
これらのコンピテンシーを持つことで、日立製作所の営業課長としての成功に近づけるでしょう。応募前に、日立製作所の公式ウェブサイトや求人情報を詳細に確認し、求められるコンピテンシーに焦点を当てた準備をすることが重要です。
上記ChatGPTのそれぞれの回答に対する編集部の所感
「必要な経験」「コンピテンシー」それぞれの回答について、スキルまでも記載されてしまっていますが、一般的な営業課長に求められるものとしては的確な内容になっています。
なぜそれが必要なのかといった背景や、細かな補足説明まで具体的に出力されているため、非常にわかりやすいです。
Chat GPTの回答(2025年5月時点)
以下は、日立製作所の「営業課長」ポジションにおけるジョブディスクリプション(職務記述書)の例です。実在の制度や組織構成をベースにしつつ、戦略人事の視点から合理性・実効性を持たせた内容にしています。
【ジョブタイトル】
営業課長(営業部門 マネージャー)
【部署名】
ソーシャルイノベーション事業統括本部 営業本部(例)
【レポートライン】
営業本部 部長 へレポート
(部下:営業担当者5〜10名)
【職務目的(Job Purpose)】
担当する事業領域・業界において、顧客価値を最大化する営業戦略を立案・実行し、事業の収益拡大をリードする。営業チームを統率し、個別案件から中長期のアカウント戦略までを統合的にマネジメントする役割を担う。
【主な職責(Key Responsibilities)】
担当業界・顧客に対する営業戦略の立案と実行売上・利益目標の達成およびKPIのモニタリング・改善
営業メンバーの育成・評価・モチベーション管理
クロスファンクショナル(開発・製造・調達など)との連携による案件推進
顧客との中長期的な関係構築とアカウントプランの策定
受注案件の契約条件交渉・社内決裁推進
市場動向・競合情報の収集と営業施策への反映
DX・営業プロセス高度化への貢献(SFA活用、インサイドセールス導入検討など)
【必要なスキル・経験(Requirements)】
法人営業の実務経験(10年以上)組織マネジメント経験(課長級以上3年以上が望ましい)
B2B領域での提案型営業経験、もしくはソリューション営業経験
KPIマネジメントの知識と実践経験
関係者を巻き込みながら案件を推進するリーダーシップと調整力
英語による業務遂行能力(TOEIC700点以上目安)
【歓迎要件(Preferred Qualifications)】
DX・デジタル商材・サブスクリプション型サービスの営業経験グローバルアカウントとの取引経験
公共・社会インフラ分野、製造業分野への理解・経験
【求める人物像(Personal Attributes)】
社内外と信頼関係を築ける高いコミュニケーション力数字に強く、課題解決に向けて粘り強く取り組める方
組織とメンバーの成長を自らの成果ととらえるマネジメント志向
日立の「社会イノベーション事業」への共感と実現への意欲
上記のChatGPTの回答に対する編集部の所感
2023年8月から約2年が経過し、AIの精度が非常に上がったと言える出力結果です。2025年8月時点では、実際の日立製作所の「ソーシャルイノベーション事業統括本部 営業本部」を例にしたジョブディスクリプションが作成されました。
目的や職責、必要なスキル、必要な経験などが構造化されたアウトプットになり、英語スキルやグローバルでの取引経験などグローバルに展開する日立製作所様の特徴にフィットした内容になっていると言えるでしょう。
一方で、本来のジョブディスクリプションに記載されるべき「コンピテンシー」の記載はありませんでした。追加での出力を依頼した結果を以下にご紹介します。
Chat GPTの追加回答(2025年5月時点)
以下に、日立製作所の「営業課長」ポジションに求められる主要コンピテンシーを追加出力します。これは経営戦略・人材開発と連動した、評価や育成に活用可能な構造を想定した内容です。
【必須コンピテンシー(Core Competencies)】
コンピテンシー名 説明 戦略的思考力 業界動向や顧客課題を的確に捉え、部門戦略やアカウント戦略に反映できる。短期的成果と中長期視点を両立する判断ができる。 顧客志向(Customer Centricity) 顧客のビジネス成功や課題解決を第一に考え、価値ある提案や関係構築を継続的に実施できる。 リーダーシップ チームのビジョンや目標を明確に示し、メンバーを鼓舞・動機づけながら成果をあげる。部下の成長を支援できる。 成果志向(Drive for Results) 売上・利益などの目標達成に強い責任感を持ち、自ら課題を発見・解決しながら行動をやりきる力。 関係構築・影響力 社内外の多様なステークホルダーと信頼関係を築き、影響力を発揮して合意形成・推進ができる。 論理的思考・課題解決力 複雑な状況でも情報を構造的に整理・分析し、実現可能な解決策を導き出す力。根拠に基づいた説明・判断ができる。 変革志向・改善マインド 業務の課題や非効率を見逃さず、営業プロセスの改革やデジタル活用などの改善に自ら取り組める。 グローバルマインド 多様な文化や価値観への理解と尊重を持ち、必要に応じてグローバルな視点で営業活動を遂行できる。
上記は、日立の全社的な人材マネジメント(例:Hitachi Spirit、Mission/Vision/Values)とも整合性をとった設計を想定しています。
ご希望であれば、**コンピテンシーごとのレベル定義(例:1〜4段階)**や、評価指標との紐づけも提供可能です。
上記のChatGPTの回答に対する編集部の所感
2023年8月時点では「コンピテンシー」の出力を依頼しても、「スキル」を含めた回答が出る傾向でしたが、2025年5月時点では思考やマインドなど、しっかりとしたコンピテンシーを回答しています。
コンピテンシーについても、「グローバルマインド」が含むなど日立製作所様のグローバル事業に沿った出力内容となっており、アウトプット精度が非常に良化しています。
AIによるジョブディスクリプション作成の課題
2025年5月時点で、ChatGPTにより生成されるジョブディスクリプションは非常に精度が高く、もはや0から作成する必要がないレベルとなっています。今後、職務記述書の整備にAI活用が加速していくと考えられます。
個社それぞれで、ジョブディスクリプションのたたき台として活用するには非常に有益と言えるでしょう。
一方で、AIによるジョブディスクリプションの作成には、以下のような課題もあります。
- 企業固有の組織文化や価値観を反映することが難しい
- 専門性が高い職種では、専門用語の適切な使用に限界がある
- 一般化された内容になりやすく、個社ごとの組織や職種に合わせたカスタマイズに工数がかかる
- 「職務記述書」という文書の状態で出力されるわけではないため、文書化する工数がかかる
- ジョブディスクリプション作成後の運用や保守(定期的な内容のメンテナンス)に大きな工数がかかる
ジョブディスクリプションの文書としての整備や、実際の職務の運用、今後の職務記述書の定期的なメンテナンスまで効果的に行うためには、ジョブディスクリプションや職務の運用に特化した「Job-Us(ジョブアス)」などの専用システムを活用するのがおすすめです。
AIで作成するジョブディスクリプションは、あくまでもたたき台としてとらえることが重要です。また、実際の職務運用や保守管理はカバーしきれないことも認識しておく必要があるでしょう。
まとめ
ChatGPTなどのAIツールは、ジョブディスクリプション作成の強力な支援ツールとして活用できます。AIがたたき台を作成し、人間が個社ごとに組織や企業文化などのカスタマイズを行う協働作業により、質の高いジョブディスクリプションを以前よりも効率的に作成することも可能になるでしょう。
一方で、実際の職務運用や作成したジョブディスクリプションの定期的なメンテナンスには、大きな工数がかかります。本格的に職務運用を検討する場合は、専用システムを活用することが効果的です。
今後も進化を続けるAI技術をうまく取り入れることで、採用プロセス全体の効率化と質の向上が期待できるでしょう。ぜひ、あなたの会社のジョブディスクリプション作成にもAIの力を取り入れてみてはいかがでしょうか。