2025/07/25

ジョブ型人事

報酬制度

ジョブ型人事の導入企業|オリンパス株式会社の事例を詳しく解説

オリンパス株式会社は、1919年に創業された老舗の日本企業です。2024年統合レポートでは海外売上比率が85%を超え、グローバル企業における外国人役職者の比率が51%に達しているグローバル企業となっています。

 

世界標準の人事制度や施策を積極的に取り入れている同社のジョブ型の事例は、グローバルな経営を目指す経営者の方や人事部門の責任者の方にとって、多くの学びを得られる内容です。

今回の記事では、オリンパス株式会社がジョブ型人事制度を導入するに至った経緯や、等級制度・報酬制度・評価制度といった具体的な仕組みについて、詳しくお伝えしていきます。

 

オリンパス株式会社の企業概要

オリンパス株式会社は、1919年(大正8年)10月12日に設立されたメーカーです。かつてはカメラや音楽録音機器のICレコーダー、カセットレコーダーが中核事業でしたが、近年では医療分野への事業展開に力を入れています。

東京証券取引所プライム市場に上場しており、2025年3月期の売上高は9,973億円を記録しています。2024年統合レポートによれば、海外売上比率は85%を超え、オリンパスグループ全体における外国人役職者の割合は51%に達しています。

 

オリンパス株式会社におけるジョブ型人事制度導入の背景

オリンパス株式会社では、これまでビジネス面だけでなく経営陣・従業員の両面でグローバル化を推進してきました。

しかし、真のグローバル企業となるため、2019年から「Transform Olympus」という企業変革プランをスタートさせています。その一環として、グローバル人事制度、すなわちジョブ型人事制度の導入が決定されました。

出所:第4回 三位一体労働市場改革分科会

 

従来の制度では、新卒一括採用を中心とした年次による処遇が基本となっていたため、中途採用で入社した社員から「内部公平性を重視しすぎている」という不満の声が多く上がっていました。適材適所の配置や処遇の決定が困難な状況となっていたのです。

加えて、若手社員の離職率上昇や、専門的なスキルを活かして成果を出す人材に対する「公正」な処遇が十分にできていないという問題も顕在化していました。

 

オリンパス株式会社には労働組合が存在するため、ジョブ型人事制度の導入は段階的に実施する方針を取りました。

まず、2019年度に国内の管理職約1,800名を対象として実施し、2023年4月からは国内の一般社員にも対象を拡大しています。今後は国内グループ企業や海外拠点の管理職への展開も計画されています。

出所:第4回 三位一体労働市場改革分科会

 

ジョブ型人事制度の詳細

オリンパス株式会社のジョブ型人事の内容を解説します。「等級制度」「報酬制度」「評価制度」の3つをそれぞれ詳しく解説していきます。

 

等級制度の詳細

出所:第4回 三位一体労働市場改革分科会

 

等級制度では、職務における責任の大きさを基準とした12階層(管理職7層・非管理職5層)に体系化されています。

各等級には共通の職責ガイドラインが整備されており、求められる役割が明確に定義されています。

 

階層 対象 特徴
管理職7層 マネジメント職・エキスパート職 グローバル共通運用・複線型・コース間移行可能
非管理職5層 一般社員 国内共通運用・職務責任に基づく処遇

 

管理職についてはマネジメント職とエキスパート職の複線型となっており、マネジメント業務を担当しなくても、高度な専門性を持つ職務に対しては管理職相当の処遇を適用する仕組みが構築されています。

両コース間での移行も可能な柔軟性を持った制度設計となっています。

制度の適用範囲については、管理職層はグローバル共通、非管理職層は国内共通での運用となっています。

 

報酬制度の詳細

出所:第4回 三位一体労働市場改革分科会

 

各国の物価や通貨、給与慣習の違いなど各国の事情を考慮し、オリンパス株式会社ではグローバルでの報酬統一は行っていません。しかし、日本国内では事業環境を反映した報酬水準の見直しを実施しています。

 

従来は報酬水準のベンチマーク対象として、旧来の主力事業である映像事業と科学事業に加え、現在重点的に取り組んでいる医療事業を総合的に検討していました。
しかし、今後の事業戦略として医療事業を中核に据える方針を会社として明確に打ち出したことから、医療機器を中心としたヘルスケア業界の水準をベンチマークに変更しています。

変更の結果、従来の報酬レンジがベンチマークと比較して、やや下回っていることが明らかになりました。

 

日本国内では、基本給を職責に応じて決定する仕組みを採用しています。賞与については、冬季は定められた標準月数を支給し、夏季は会社業績と個人評価結果をもとに支給額を決定します。

従来は非管理職の大部分の社員が賞与支給率100%を下回ることがありませんでしたが、賞与のメリハリが従来よりも明確になっています。

 

評価制度の仕組み

出所:第4回 三位一体労働市場改革分科会

 

評価制度は全世界の正社員に共通する「成果評価・行動評価・総合評価」の3つの軸で構成されています。
枠組みは共通となっていますが、評価方法などの運用については海外拠点に委ねる形となっています。

新人事制度導入の初年度には、制度の本質と運用を理解してもらうため、目標設定・中間レビュー・期末評価の各段階で説明会やワークショップを開催しました。
さらに、マネージャー向け評価力向上研修なども実施したことで、評価にメリハリが生まれる結果となっています。

 

導入プロセスの特徴

2023年4月の人事制度改定に際して、2022年秋から経営層・管理職・組合員別に約60回にわたる説明・意見収集セッションを実施するなど、社内に向けた丁寧なコミュニケーションを実施しています。

説明を行う相手に応じて内容や伝え方を柔軟に調整しながら、丁寧な対話を積み重ねることで、社員一人ひとりが納得感を持てるような配慮を行いました。

 

日本発のグローバル企業であるオリンパスは、「対話を大切にする風土」を活かし、人事制度変革のプロセスにおいても“オリンパスらしさ”を維持するよう努めた点が特徴的です。

制度導入においては、Q&Aを用意するだけでなく、社員の立場や関心事に応じて「なぜ今この制度が必要なのか」「導入によって何が変わるのか」を丁寧に説明する姿勢を一貫して保っていました。このような細やかなアプローチが、社内での理解促進と円滑な制度定着につながったといえます。

 

まとめ

オリンパス株式会社がどのようにジョブ型人事制度を導入し、等級・報酬・評価といった制度を改革してきたのか詳しくご説明しました。

段階的かつ丁寧な導入プロセス、職務責任に応じた等級制度の再設計、医療機器に軸足を置いた報酬水準の見直し、グローバル共通の評価制度の整備など、中長期的な視点に立った本質的な制度改革を実現しています。

 

単に制度を変えるのではなく、対象者ごとに伝え方を工夫する丁寧なコミュニケーション、約60回のセッションを通じて社員の納得感を高め、「オリンパスらしさ」を大切にした制度導入を行った点も、多くの企業にとって参考になるポイントです。

これからジョブ型人事制度の導入や見直しを検討している企業の皆さまにとって、オリンパス株式会社の事例は実践的なヒントが詰まった好例となるでしょう。