ジョブ型人事
報酬制度

ジョブ型人事の導入企業|東洋合成工業株式会社の事例をご紹介
日本でもジョブ型人事制度・ジョブ型雇用を導入する企業が増えていますが、その事例の多くは大企業が中心になっています。中堅~中小規模の企業の経営者様、人事責任者様にとって、参考になるジョブ型の事例は、あまり多くないのが現状です。
そういった状況を踏まえて、本記事では従業員数約900名(2025年3月時点)の東洋合成工業株式会社のジョブ型導入事例をご紹介します。
貴重な中堅企業のジョブ型事例は、多くの経営者様、人事責任者様にとって有益な内容となるでしょう。
東洋合成工業株式会社とは
1954年に創業した東洋合成工業株式会社は、液晶ディスプレイ・有機EL・半導体・蓄電池用フォトレジスト材料で世界トップクラスを誇るグローバルニッチメーカーです。
2025年3月時点での従業員数は、約900名となっています。
2000年には東京証券取引所スタンダード市場に上場し、直近の売上は386.6億円(2025年3月度/前年比+21%の大幅増収)と好調に推移しています。また、2020年には経済産業省が選定する「グローバルニッチトップ企業100選」にて、半導体材料の世界シェアNo.1企業として認定されました。
50年以上の歴史を持つ東洋合成工業ですが、社長自らYouTubeに登場し、ラグビーU20日本代表元監督の中武竜二氏とリーダーシップ対談を行うなど、注目を集めるユニークな取り組みを実施しています。
東洋合成工業は人事制度においても、2017年から先進的にジョブ型を導入しています。
2024年9月には、首相官邸での「ジョブ型人事導入促進会議」で率先導入企業として紹介され、岸田文雄内閣総理大臣から感謝状が授与されました。さらに、同年12月に開催された「三位一体労働市場改革分科会」でも、ジョブ型人事の導入を発表し、「中堅企業の現場のリアルな悩みを届けたい」とのメッセージを発信しています。
東洋合成工業株式会社のジョブ型の導入事例
東洋合成工業株式会社は、中長期の組織強化と人材育成、採用競争力の強化などを目的にジョブ型人事制度を導入しました。
同社がジョブ型の導入に至った背景や制度の詳細(等級制度、報酬制度、評価制度など)を具体的に解説していきます。
ジョブ型人事制度の導入の背景
東洋合成工業は元々は創業オーナーが社長を務めており、技術投資には積極的な一方、中長期的な人材育成が手薄だった点が課題となっていました。
人事機能が限定的で専属人事担当者がおらず、総務部が株主総会と並行して採用活動も担うというような状態でした。
2014年に現社長へ交代した際に、そういった人事領域の課題を踏まえて、中長期の組織強化と人材育成、採用競争力の強化、賃金水準の見直しなどに重点を置く方針が打ち出されました。
その方針の一環で2017年には、管理職を対象としたジョブ型人事制度を導入しました。
出所:持続的成長が可能なイキイキ組織づくりに向けて ~中堅企業の人事制度・人材育成・組織開発~(内閣官房)
東洋合成工業のジョブ型人事は管理職のみが対象で、非管理職は適用外となっています。非管理職向けには、人材育成を重視する観点からジョブ型ではなく、行動や挑戦を評価する発揮能力等級を採用しています。
ジョブ型の制度策定に際しては、経営層と現場双方へのヒアリングを重ね、求められる人材像と既存制度の課題を明確化したうえで構築されています。
等級制度の詳細
管理職向けの等級体系は、「マネジメント」と「プロフェッショナル」の複線型構造を導入しています。
- マネジメントコース:約85%
- プロフェッショナルコース:約15%
役割等級により管理職の全ポジションに対して職務記述書(ジョブディスクリプション/JD)を整備し、職務内容や責任を明確化しています。
ポジションの変更に伴って、等級が上がるだけでなく、下がることもある制度となりました。
非管理職に対しても降格制度を設けていますが、ローパフォーマーのみに限定されています。
出所:持続的成長が可能なイキイキ組織づくりに向けて ~中堅企業の人事制度・人材育成・組織開発~(内閣官房)
また、ジョブ型導入にともない、従来の57歳定年の役職制度を廃止し、能力があれば年齢に関係なく登用する方針へ変更されました。
東洋合成工業の等級制度は、社長が管理職に対して「今後の管理職の役割は、組織目標の達成が50%、部下の育成が50%である」という役割バランスを強調したメッセージを発信している点が特徴的です。
組織目標や自分自身の目標達成は重要ではあるものの、部下の育成・成長を通じて目標達成することも同様に重要である、というような思想となっています。
出所:持続的成長が可能なイキイキ組織づくりに向けて ~中堅企業の人事制度・人材育成・組織開発~(内閣官房)
また、等級ごとに必要なスキルと研修を整理したスキルマップを策定し、社員と上司が保有スキル・不足スキルを共有したうえで育成計画へ反映しています。
さらに、リスキリング機会の提供や社内公募の拡充など、ジョブ型を自律的なキャリア形成につなげるための施策も整備・展開しています。
報酬制度の詳細
東洋合成工業は、会社として組織のマネジメントや部下の育成を重要視しています。そのため、報酬制度はマネージャーが担う人材育成の役割の重要性が考慮されており、マネジメントコースはプロフェッショナルコースよりも報酬水準が高めに設定されています。
この報酬水準は、中途採用時のオファーの辞退を防ぐため、大手企業をベンチマークした金額になっている点が特徴です。
また、人材育成を重視しているため、係長・主任には育成手当を新設し、部下を育成する役割を報酬と連動させて意識づけています。
一方で、住宅・家族手当は廃止しており、全体的にシンプルな基本報酬に変更されました。
賞与は経常利益率によって変動する仕組みで、社員の業績に応じた評価傾斜と配分でメリハリをつけた設計になっています。
評価制度の詳細
東洋合成工業の評価制度は、管理職・非管理職ともに、半期ごとに「業績評価」と「行動評価」を実施しています。
- 業績評価:等級基準に基づく目標設定を行い、成果を評価する
- 行動評価:等級ごとの行動項目をもとに、発揮した行動を評価する
出所:持続的成長が可能なイキイキ組織づくりに向けて ~中堅企業の人事制度・人材育成・組織開発~(内閣官房)
業績評価が賞与に反映され、業績評価と行動評価を合わせた総合評価により、昇給・降給と等級変更が実施されています。
等級が上がるにつれて、総合評価の結果に占める業績評価の割合を高めるように設計されているのがポイントです。
ジョブ型導入前は、報酬・評価ともに透明性が低い人事制度となっていましたが、報酬設計の社内への開示や評価会議において全事業部長が参加するといった取り組みを通じて、社内での目線を合わせています。
ジョブ型の導入プロセス
東洋合成工業では、ジョブ型人事制度導入時の費用対効果と導入手順を慎重に検討し、約2年後で社内承認を取得しました。
まだジョブ型が浸透していない2017年当時に「次の事業成長に向けて、大きく制度を変えるための最小限の原資であり、工夫しながらコストを抑えて制度を変えていく」と、社内に前向きなメッセージを発信しながら制度改革を進めていきました。
また、労働組合に対しても、課題認識をそろえて丁寧にコミュニケーションや協議を実施しています。
ジョブ型人事へ移行する際の報酬については、管理職は従来の報酬レンジへ一時的に移行し、評価に応じて徐々に適切な報酬水準に移行していきました。
これは社員のモチベーション維持や組合対応などを考慮した工夫となっています。
導入後の効果と課題
東洋合成工業ではジョブ型人事の導入後、優秀な人材の昇格スピードが加速し、選抜や昇進のカルチャーが形成されたことが大きな効果となっています。
また、人事体制についても、ジョブ型への移行に伴って仕組みを整えながら「人材総務部」を設立し、主力拠点には人事担当者を配置しました。
当初は総務が人事業務を兼務する体制となっていましたが、人事の課題をタイムリーに解決できる体制が整備されています。
一方で、HRBPの強化にはまだ課題があり、今後は配置する人員の専門性や経験が鍵となっています。
まとめ
今回は、東洋合成工業株式会社がどのようにジョブ型人事制度を導入し、等級・報酬・評価といった制度を再構築してきたのかを具体的にご紹介しました。
人材育成を起点とした制度改革により、役割や職務に基づく等級制度、ポジションに応じた報酬体系、発揮行動と成果を評価する仕組みが整備され、社員一人ひとりが納得感を持ちながら成長に挑戦できる環境が実現されています。
また、管理職の役割に「部下育成」を明確に位置づける方針や、現場主導で課題を解決できる体制の整備など、中堅企業ならではのリアルな取り組みが数多く見られました。
これからジョブ型制度の導入を検討している企業の方や、育成と評価の連動を重視した人事制度づくりを進めたいご担当者の方にとって、東洋合成工業の事例は非常に実践的なヒントを与えてくれるのではないでしょうか。