
職務評価とは?4つの手法と具体例、構成要素を一挙に解説!
職務評価は、組織内の職務内容を分析・比較し、点数化することで、各職務の相対的な価値を決定する手法です。公正な人事評価を行う上で有用な手法ですが、他の評価手法とはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、職務評価の定義や特徴、4つの評価手法、職務評価の具体例、そして他の評価手法との違いについて詳しく解説します。職務評価の結果を活用することで、経営や業務の改善に役立てることができるでしょう。
目次
職務評価とは?
職務評価とは、組織内の全ての職務内容を客観的に分析・比較し、点数化することによって、それぞれの職務の相対的な価値の大きさを測る手法のことを指します。職務評価は、従業員個人ではなく職務自体を評価するという点で、一般的な人事評価とは異なる制度ですが、公正な人事評価を行う上で有用な手法になります。
職務評価では、従業員が担っている各職務を整理・分析・評価し、各職務の格付けを行います。例えば、以下の2つの職務を比較する場合、「1」のほうが職務の価値が大きいと言えます。
- グローバル全体、部下1万人を管掌している「営業本部長」
- 関東地方全体、部下100人を管掌している「営業部長」
上記は「部下の人数」「管掌範囲の広さ」という比較的わかりやすい基準をもとに判断ができますが、実際の職務評価では「専門性」「革新性」「経営への影響度」「問題解決の困難度」なども基準となりえます。
また、同じ「営業部長」という肩書きであっても、職務の価値の大きさは変わることがあります。単に管掌エリアの広さだけでなく、重要顧客の割合など経営へのインパクトの強さなどが判断基準になる場合もあります。
職務分析と職務評価の結果は、ジョブディスクリプション(職務記述書)としてまとめられます。この結果をもとに、職務給の導入や職務体系の見直し、等級や報酬額の決定など、経営や人事制度に活用していくことができます。
職務評価の4つの手法
厚生労働省によると、職務評価を行う際には、一般的に4つの評価手法が用いられます。ここでは、それぞれの手法について詳しく解説していきます。
- 単純比較法
- 分類法
- 要素比較法
- 要素別点数法
単純比較法
単純比較法は、職務を1対1で比較することによって、職務の大きさを判断する手法です。職務に序列をつけられるというシンプルな比較方法が、この手法のメリットと言えます。
例えば、「東日本地方を管掌する営業部長」と「北海道を管掌する営業部長」のように、どちらの職務価値が大きいのかを一つ一つ比較していきます。このケースでは、単純に管掌エリアだけを比較すると東日本地方を管掌する営業部長のほうが職務価値が大きいと一般的には判断されるでしょう。しかし、この会社のビジネスが北海道の名産物の卸業で、北海道の顧客が9割であった場合はどうでしょうか?売上への影響度合いから、北海道を管掌する部長のほうが職務価値が大きいと判断できるかもしれません。
このように、職務の難易度や事業の性質、経営への影響度などを基準とし、総合的に判断することが重要です。ただし、単純比較の結果、職務の重要度が低いと判断された場合、従業員の不満を招く可能性もあるため、社内への告知には注意する必要があります。
分類法
分類法は、職務の大きさに応じて段階を設定し、職務の難易度や重要度に基づいて分類する手法です。例えば、「10段階」や「ABCの3段階」などスケールを設定し、それぞれの職務を各段階のあてはまる段階に割り当てていく手法です。「東日本地方を管掌する営業部長」と「北海道を管掌する営業部長」の場合に、それぞれが10段階のどこに配置するか、を考えていきます。
比較する方法とは異なり、営業職とマーケティング職がどちらも5段階目というように複数の職務を同じ評価段階に配置することができます。したがって、単純比較法よりも不満が生じにくいと言えます。また、分類法は視覚的に整理しやすいこともメリットになります。
要素比較法
要素比較法は、職務の構成要素を設定し、この構成要素別にレベルの内容を定義する手法です。
「求められる知識」や「代替性」「熟練度」などが構成要素の例として挙げられます。それぞれの職務の内容を設定した要素別に分解し、最も合致する定義はどのレベルかを判断することにより、職務の大きさを評価します。**職務に必要とされる要素条件を比較し、比重の大きい要素がある職務ほど、職務の大きさが高いと判断されます。ただし、企業が属する業界や経営や人事の方針によって重視する要素が異なるため、自社に沿った構成要素を設定することが重要です。
要素比較法は、単純比較法や分類法よりも、客観的な評価が可能になることがメリットです。
要素別点数法
要素別点数法は、構成要素を設定したうえで点数化し、その総計得点で職務の大きさを評価する手法です。構成要素を分類して評価する点は要素比較法と同様ですが、それらを得点で評価する点が異なります。
例えば、とある職務に対して「求められる知識」は4ポイント、「代替性」は3ポイントで、合計7ポイントのように評価します。単純に足し算をするのではなく、特定の要素に重み(ウェイト)を付ける方法もあります。
点数化して評価を行うため、明確でわかりやすい点がメリットです。
職務評価の具体例|要素別点数法
職務評価は、厚生労働省が提示する手法やコンサルティングファームなどが独自に開発されている手法があります。
近年では、要素別点数法が活用される傾向にあります。いくつか具体例をご紹介していきます。
マーサー「International Position Evaluation」
マーサーのInternational Position Evaluation(IPE)は、独自のグローバルな職務評価手法です。以下の5つの評価項目をもとに職務評価を行います。
5つの評価要素
- インパクト
- 職務が組織に与える影響の性質、範囲、深さを評価します。
- 組織への貢献度合いを測定
- 意思決定の重要性と影響範囲を考慮
- 結果に対する責任の程度を評価
- 職務が組織に与える影響の性質、範囲、深さを評価します。
- コミュニケーション
- 職務に必要なコミュニケーションスキルの種類、目的、対象を評価します。
- 内部・外部とのコミュニケーション能力を評価
- 情報の複雑さや機密性を考慮
- 説得力や交渉力の必要性を測定
- 職務に必要なコミュニケーションスキルの種類、目的、対象を評価します。
- イノベーション
- 職務が要求する問題解決能力や創造性のレベルを評価します。
- 新しいアイデアや解決策を生み出す能力を測定
- 問題の複雑さと解決の困難度を考慮
- 創造的思考の必要性を評価
- 職務が要求する問題解決能力や創造性のレベルを評価します。
- 知識
- 職務遂行に必要な技術的・組織的スキル、知識、人材管理要件、地理的コンテキストを評価します。
- 必要な教育レベルや専門知識を考慮
- 経験の深さと幅を評価
- マネジメントスキルの必要性を測定
- グローバルな視点の必要性を考慮
- 職務遂行に必要な技術的・組織的スキル、知識、人材管理要件、地理的コンテキストを評価します。
- リスク
- 職務に関連する精神的・身体的リスクの性質と、職務が行われる条件を評価します。
- 意思決定に伴うリスクの程度を考慮
- 身体的危険や健康リスクを評価
- ストレスや精神的プレッシャーのレベルを測定
- 労働環境や条件を考慮
- 職務に関連する精神的・身体的リスクの性質と、職務が行われる条件を評価します。
これらの要素は、成功している企業が職務の重要性や価値をどのような軸で考えているかが端的にまとまったものです。IPEは、一貫した方法で組織の職務を評価できる手法となります。
参考:MERCER IPE
コーン・フェリー「ヘイ・ガイドチャート」
ヘイ・ガイドチャート法は、ガイドチャートとプロファイルの2つの要素で構成されています。ガイドチャートの基本となる評価要素は3つあり、その中にさらに8つの評価軸があります。
ガイドチャートでは、3つの評価要素ごとに職務価値の点数(ジョブサイズ)を算出し、プロファイルでは、算出したジョブサイズの妥当性を検証します。
3つの評価要素と8つの評価軸
- 求められる知識・経験
- 実務的・専門的・科学的ノウハウ
- 経営・マネジメントノウハウ
- 対人関係スキル
- 問題解決能力
- 思考環境
- 思考の難易度
- 達成責任
- 行動の自由度
- 職務の規模
- インパクト
ヘイ・ガイドチャートの職務評価は、以下のプロセスで実施します。
- 職務情報の収集
- ジョブディスクリプション(職務記述書)の作成
- 職務評価案の作成
- 職務評価の確定
職務評価の実施には、ジョブディスクリプションが必要不可欠になります。ジョブディスクリプションは以下の内容で作成します。
- 職務要件
- 求められる成果責任
- 能力要件
- 必要な知識・経験
- 必要なコンピテンシー
- 職務評価のための職務情報
- 定量データ
- 担当する難易度の高いテーマ
- 決定権限
- 組織図
- その他の特記事項
参考:書籍「ジョブ型人事制度の教科書 日本企業のための制度構築とその運用法」
タワーズワトソン「グローバルグレーディングシステム」
タワーズワトソン社のグローバル・グレーディング・システム(GGS)は、アメリカ企業の評価システムを基盤として開発された職務評価手法です。
縦軸が職階となり、上段が「エグゼクティブ・シニアマネジメント・CEO」、中段が「ビジネスサポート」、下段が「プロダクション・オペレーション」の3段に分かれています。
- エグゼクティブ・シニアマネジメント・CEO
- ビジネスサポート
- プロダクション・オペレーション
3段の職階の評価軸が横軸に置かれ、1から25までの段階に分かれます。大きくは以下のように分類されます。
- 職務
- 技能
- 専門的知識
- リーダーシップ
- 部門戦略
- ビジネス戦略
職務給の対象となるのは「職務」「技能」「専門的知識」の評価軸となり、成果主義の対象となるのは「リーダーシップ」「部門戦略」「ビジネス戦略」となっています。
参考:タワーズワトソン「ジョブレベリング」
職務評価を構成する3つの要素|要素別点数法
要素別点数法を用いた職務評価は、「職務評価表」を活用します。職務評価表は、以下の3つの要素から成り立っています。
- 評価項目
- ウェイト
- スケール
ここでは、これら3つの要素について詳しく解説します。
評価項目
評価項目とは、職務内容を構成する要素のことを指します。具体的には、協調性や規律性など、職務を遂行する上で従業員に求められる要素を会社が定め、それらを一つ一つ項目として設定していきます。例えば、以下のような評価項目が挙げられます。
- 代替性
- 採用やローテーション等によって、代わりとなる人材を確保するのが困難な業務
- 革新性
- 既存の方法とは全く異なる新しいアプローチが求められる業務
- 専門性
- 特殊なスキルや知識が求められる業務
- 裁量性
- 従業員の裁量に任せる業務
- 対人関係の複雑さ
- 部門外または部門内での多くのコミュニケーションや調整が求められる業務
- 問題解決の困難度
- 課題の抽出、解決の難易度が高い業務
- 経営への影響度
- 会社全体の業績・利益への影響度合いが高い業務
ウェイト
ウェイトとは、構成要素(評価項目)の重要度を表します。企業の経営方針や事業の特性などに応じて、構成要素のウェイトを決定します。
その企業にとって重要と考えられる評価項目に対して、ウェイトを大きく設定します。例えば、法務部門など特定の領域に専門知識が要求される部署では、「専門性」に大きなウェイトを設定するといった割り当てを行います。経営方針や事業特性に応じて、各構成要素に最適なウェイトを割り当てていきます。
スケール
スケールとは、それぞれの構成要素を評価する際の尺度を指します。一般的には5段階の尺度基準が用いられますが、より詳細な評価を行う場合は10段階など、より細かい尺度を採用します。
職務評価では、「スケール」と「ウェイト」を掛け合わせて評価項目の点数を算出します。全ての評価項目の点数を合計したもの(職務ポイント)がその職務の大きさを表すことになります。
職務評価と他の評価手法の違い
人事評価において使用される評価手法には、職務評価の他に主に以下の2つがあります。
- 情意評価
- 役割評価
ここでは、それぞれの評価手法の違いについて詳しく解説します。
職務評価と情意評価の相違点
職務評価と情意評価は、評価の目的や対象が全く異なります。職務評価はご説明してきたとおり、「職務」を対象に比較評価を行いますが、情意評価は従業員の「仕事に取り組む態度」「積極性」「モチベーション」といった感情的な側面が対象となります。職務評価と情意評価では、そもそもの評価対象が異なるのです。
情意評価では評価対象がより定性的で数値化が困難なポイントを評価することになり、評価者の主観的な判断が混ざりやすいと言えます。また、両者は評価対象が全く異なるため、職務価値が大きく職務評価が高くても、業務への積極性や取り組む態度が悪く情意評価が低い、というようなケースも起こりえます。
職務評価と役割評価の相違点
職務評価はあくまでも「職務」のみを対象に評価するのに対し、役割評価はその役割(仕事)を担当する従業員の能力なども評価の対象に含まれます。つまり、評価の対象に従業員という「人」が含まれているかどうかが両者の違いです。
役割評価は仕事自体も評価するため、その点では職務評価と近しい評価手法になります。職務評価と能力評価を掛け合わせたような評価手法が役割評価だととらえるとわかりやすいでしょう。
ただし、役割評価や職務評価は新しい評価手法のため、各企業によって具体的な定義やとらえ方が異なっているケースも多いです。
まとめ
職務評価は、組織内の職務内容を分析・比較し、点数化することで、各職務の相対的な価値を決定する手法です。単純比較法、分類法、要素比較法、要素別点数法の4つの手法があり、評価項目、ウェイト、スケールの3つの要素で構成されています。
職務評価は、情意評価や役割評価とは異なる手法ですが、公正な人事評価を行う上で有用な手法であると言えるでしょう。職務評価の結果を活用することで、経営や業務の改善に役立てることができます。