ジョブディスクリプション / 職務記述書
人材マネジメント

組織のあるべき姿とは?持続的な成長に向けて行うべき理想像の可視化
急速に変化するビジネス環境下で持続的な成長を実現していくためには、企業は「経営戦略」と「組織構造」が乖離しないように定期的に見直すことが重要です。
その中核にあるのが、「理想の組織のあるべき姿」です。これは単なる組織図の話ではなく、事業目標を実現するための最適な組織構造・役割・機能の設計を指します。
本記事では、組織のあるべき姿について、その例や可視化の手順などを解説していきます。
目次
組織のあるべき姿とは?
「組織のあるべき姿」とは、ミッションやビジョン、中長期の経営戦略を実現するために、どのような組織構造(各部門の設計や役割、機能など)とするべきかという理想の組織状態を指します。
組織のあるべき姿として定義する内容には、単なる組織図だけでなく、以下のような要素が含まれています。
- 組織構造(部門・職種・階層などの配置)
- 各部署・役職の役割と責任範囲(R&R:Roles & Responsibilities)
- スキルや人員配置の最適化
- 意思決定のスピードと柔軟性
- 組織文化や価値観の方向性
組織の理想像は、As-Is/To-Beのフレームワークでいう、「To-Beの組織像」ともとらえられます。
- As-Isの組織:現在の組織構造や人員配置。様々な課題やリソースなどの制約条件を含んでいる状態。
- To-Beの組織:組織の理想的な将来像。目的達成に向けて、組織構造やカルチャー、人材などが最適になっている状態。
このTo-Beの組織像を定めることで、人材戦略や育成計画、再配置、人事制度の設計までを経営戦略と連動させることが可能になります。
理想的なあるべき組織の例
以下は、それぞれの企業戦略に沿った「理想的な組織のあるべき姿」の具体例です。
事業の再構築フェーズにある企業のあるべき姿
事業再構築や経営改革のフェーズでは、既存の縦割り組織ではスピードと柔軟性に欠けるため、より機動力のある組織設計が求められます。
このようなフェーズでは、「プロジェクトベースの横断的組織」を軸に据えるのが有効と考えられます。
つまり、「機能横断型×変革志向」の組織像が理想と言えます。
理想的な組織像の例
- 事業ユニットごとに小回りの効くチームを配置する
- 企画・開発・営業などを横串で動かす「クロスファンクショナルチーム」
- 経営直轄の「変革推進室」「新規事業室」などの専任組織を設置する
- 組織とKPIの連動(売上構成比や利益率に応じた再配置)
成功するためのポイント
- 組織単位でのKPIを設計する
- 抜本的な人事制度の見直しを行う(役割等級制度など)
- 現場レベルの巻き込みとチェンジマネジメント
グローバル展開を目指すベンチャーのあるべき姿
国内市場から海外展開に舵を切るベンチャー企業では、スピードと再現性を両立させた組織構造が求められます。
「人が増えても破綻しない仕組み化」「拠点間での共通言語化」が鍵になります。
つまり、「成長を止めないためのスケーラブルな設計」が成された組織が理想形と言えます。
理想的な組織像の例
- 職務・ポジションベースの組織設計(「誰が」ではなく「何を」するかを明確化)
- グローバル共通のジョブディスクリプションと評価基準の整備
- 各国拠点に同等の意思決定権を持つ「リージョナルユニット制」とする
- リモート・ハイブリッドを前提としたコミュニケーション基盤の構築(Slack / Notion / Zoom)
成功するためのポイント
- 標準化されたオペレーション(SOP:Standard Operating Procedure)の整備
- 採用時からグローバルスキルを意識したポジション要件
- 「本社が全てを決める」構造に陥るリスクの予防、自律性の確保
DX推進を掲げる老舗メーカーのあるべき姿
製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、単にIT部門の強化にとどまらず、全社的な業務改革と人材再配置が不可欠です。
特に、ITと現場(OT:Operational Technology)をつなぐ橋渡し人材と、それを活かす構造が鍵になります。
つまり、「技術の融合と現場の変革を同時に促進するマトリクス型組織」が理想形と言えます。
理想的な組織像の例
- IT・業務・製造が連携するマトリクス型組織(縦×横を組み合わせる)
- デジタル推進部門が各部門に埋め込まれる「デジタルBP(ビジネスパートナー)」体制
- データ分析チームやAI応用チームなど専門ユニットの新設
- 従来の製造工程を持つライン部門と横串の改革推進チームを併存させる
成功するためのポイント
- DX人材のリスキリングと外部の専門人材登用のハイブリッド
- デジタル施策と既存業務の「橋渡し役」を担う中間層の育成
- 現場の理解と納得を得るための段階的導入と実績づくり
組織のあるべき姿を可視化する手順
経営戦略と組織構造、現場の人事施策(人材配置・育成・採用など)との一貫性を持たせるために、あるべき姿を構造として見える化する5ステップを解説します。
ステップ1:経営戦略と事業方針を明確化する
まず最初にすべきことは、自社の経営戦略や中長期的な事業方針の再確認です。場合によっては、ミッションやビジョンの再整理から実施する必要もあるでしょう。
組織設計は単なる人員の配置ではなく、企業が実現したい成果を支える仕組みとする必要があります。
例えば、BtoB SaaS企業が「カスタマーサクセスを強化してLTVを最大化する」ことを中核戦略に据えるのであれば、それに適した組織構造が必要になります。
「どこにリソースを集中すべきか」を経営視点で明文化することが、組織設計の起点となります。
ステップ2:To-Be組織(理想の組織構造)をポジション単位で設計する
次に、戦略実行に必要な組織構造(To-Be組織)の設計です。ここでは「誰を配置するか」ではなく、「どんな役割・ポジションが必要か」を洗い出します。
部署単位で役割を細分化し、それぞれに必要な職務(ジョブディスクリプション)を定義することで、「戦略を回すために必要な機能」が明確になります。これはジョブ型雇用や職務ベースの人材マネジメントとも親和性が高く、将来的なスキルの整備や評価制度にもつながるステップです。
職務やジョブディスクリプションの整備は運用負荷が非常に高いため、必要に応じて「Job-Us(ジョブアス)」などの専門ツールを活用しましょう。
あるべき姿は「3年後」の理想像を基本として考えることをおすすめしますが、スタートアップや変化の激しい業界においては「1年後」のあるべき組織像でも問題ないでしょう。
経営戦略が落とし込まれている中期経営計画などをベースに、理想の組織像に反映させることが重要です。
ステップ3:現行組織(As-Is)の実態を把握する
理想像が描けたら、現在の組織の姿(As-Is組織)を定量も交えて把握します。組織図や人員配置表を用いて、現在どの部署に誰がいて、どのような役割を担っているかを棚卸ししていきます。
この段階で有効なのが、「ポジション管理」の導入です。人物ベースではなく「役割・職務ベース」で可視化することで、属人性を排除し、本質的な組織の機能性を見える化できます。
ポジション管理については、以下の記事で詳細に解説しています。
ステップ4:ギャップ分析を行い、課題を特定する
組織のTo-Be(理想)とAs-Is(現状)の両方が可視化できたら、ギャップ分析を実施します。
以下の観点で、現在の組織的なボトルネックや課題を洗い出します。
- 欠員や空席となっているポジションはどこか
- 過員や重複が発生している職務はないか
- 業務は存在するが、正式なポジションとして定義されていないケースはないか
- 各ポジションに必要なスキルと現在の従業員のスキルにずれや不足はないか
また、以下のようなポイントから、理想像に近づくための注力ポイントを整理していきます。
- 職務の転換を図る場合に、求められるスキルはどのように異なってくるか
- 職務の転換のために、どのような育成をしていくべきか
- 各職種の人数は、これからどのように変えるべきか
- 各職務に必要な要件はどのようなことか
- 各職務の人材をどのように確保するか(社内で育成しながら異動を行うのか、外部から人材確保を図るか)
こうした分析を通じて、「このポジションは採用が必要」「この役割はリスキリングで補完できる」といった施策の優先順位が見えてきます。
会社の持続的な成長のために、人事としてできる施策を整理していくことが重要です。
ステップ5:再設計に向けた施策とロードマップを描く
最後のステップでは、可視化された課題をもとに、あるべき組織に近づくための打ち手とロードマップを策定します。
主な手段には以下のようなものがあります。
- 採用・異動による人材配置の最適化
- リスキリング・育成施策の投入
- 外部リソースの活用(業務委託・BPOなど)
- ポジションや組織体制の再編
「変化の影響範囲」や「社内の受容性」も考慮し、段階的かつ戦略的に変革を進めることが重要です。
まとめ
組織のあるべき姿を定めることは、単に人材配置を最適化するためだけでなく、経営戦略を実現するための構造改革そのものです。これを明確に可視化することで、経営戦略と組織構造、人事施策(人事制度、採用、育成、異動、評価など)と、すべての整合性が取れるようになります。
組織の理想像の可視化は、企業の持続的な成長に向けて、人事としてできる戦略人事施策の1つになり得ます。経営層と人事部門が一体となり、言語化と構造化を丁寧に進めることで、戦略と現場が連動した理想的な組織の実現が可能になるでしょう。